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zoom RSS 39歳バツイチ男性が大冒険して 道中特にモテたりせずに大魔王を倒して世界が平和になるファンタジー・9

<<   作成日時 : 2014/12/29 00:22   >>

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最初に戻ってきたのは聴覚で、ぴちょん、ぴちょん、という水の音が鼓膜を震わせた。
次いで痛覚が戻る。体中が痛い。目を開けるのもしんどい。
思わずうめき声をあげると、耳元で大臣ジュニアの声がした。
「わーっ!わーっ!勇者先輩生き返った!うおおおお大丈夫っすか!大丈夫っすかー!?」
「死んで…ないから…。あとうるさい…」
耳を塞ごうにも腕があがらない。
僕はゆるゆると瞼を持ち上げ、水音の正体を知った。
王女が、大きな葉にためた水を少しずつ少しずつ、僕の顔に落としていた。
「最初は10分置きにコップ一杯分の水をぶっかけてたんすけど、こっちの方が効率いんじゃね?ってことになって」
「あー、だから顔びしょ濡れなんだね。うん、一応ありがとう…」
「目覚ましてくれてよかったっすよ…もし勇者先輩が死んじゃったら俺…俺…」
目元を押さえて口ごもる大臣ジュニア。
僕はそこまで慕われていたのか。気恥ずかしさはあるが、悪い気はしない。
僕は彼を慰めようと、ゆっくり腕を伸ばす。
「…もし勇者先輩が死んじゃったら、俺が勇者扱いされちゃうじゃないすか…俺、国中にあんなダッセェ銅像建てられんの、絶対嫌っすわ」
僕はぱたりと腕を下ろした。
…まあ『勇者像とか建てるのだけはやめてください』と出発前に国王に言っておいたから、そういう事態にはならないはずだが。

よく見れば、僕は寝台に寝かされていた。寝台もびしょ濡れだが、大丈夫なんだろうか。
そもそもここはどこだろう。どれくらい時間が経った?状況を把握しなければ。
「確か僕は…崖から落ちたんだっけ。よく生きてたなあ」
「突然消えたからビックリしたっすよ。下が草むらになってて助かったんすね。骨とかも折れてはなさそうっすよ」
「あの時君らの後ろに化け物がいたけど、そっちは大丈夫だった?」
「え、…ああ、その化け物ってソイツっすか?」
「へっ」
大臣ジュニアが僕の後ろを指差す。軋む体でむりやり振り向くと、小山のような化け物が背を丸めてそこに座り込んでいた。
声も出せずに固まった僕の前で、その化け物は流暢に人語を話した。
「驚かせてごめんなさい…ぼく、勇者のおじさん達を案内しにきただけだったのに…」
まだ幼い少年のような声だった。ミスマッチここに極まる。
あと『勇者のおじさん』は『勇者先輩』を抑えて呼ばれたくない呼称NO.1に輝いた。
「…魔王の所への案内役か」
「うん。遅いから見てきなさいって、魔姫さまが」
「まひめさま?」
「魔王さまのむすめ」
国王の娘はお姫様だけど、魔王の娘は魔姫様と呼ぶのか。初めて知った。
僕は痛む身体をゆっくりと起こして、寝台を降り、立ち上がる。
「分かった。じゃあ案内してもらおうか」
「え?もうしたよ。勇者のおじさんをここに運んだの、ぼくだもん」
「え?」
「魔王さまはそこにいるよ」
化け物が鋭い爪で示したのは僕の後ろ、大臣ジュニアと王女の向こう。
彼らがスッと身をずらすと、その向こうにも寝台があった。
そこには、一人の老人が横たわっていた。
やせ細った腕、シワの目立つ肌、弱々しい呼吸。
総白髪の間から生えた二本の山羊の角と、半開きの口から覗く牙がなかったら、僕は目の前の老人が魔王だなんて信じられなかっただろう。
だが、もっと信じられない光景は、そのベッドのさらに向こうにあった。

年老いた魔王のベッド脇に付き従っていたのは、僕の知っている女性だった。
「久しぶりね。…まさかあなたが勇者としてここへ来るなんて」

僕の元妻が、疲れた微笑みを浮かべてそこにいた。

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