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zoom RSS 39歳バツイチ男性が大冒険して道中特にモテたりせずに大魔王を倒して世界が平和になるファンタジー・11

<<   作成日時 : 2014/12/30 21:04   >>

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「私は、この山に死ぬまで閉じ込められるのが嫌でした。だから勘当同然でこの山を出て、王都で暮らし、…結婚もしました」
大臣ジュニアと王女の視線が僕に集まる。
…親に勘当されている事は聞いていた。
だから僕は彼女の親に挨拶していなかったし、結婚式にも呼ばなかった。
僕の親も既にいなかったので、お互い様だった。

「ですが、とうとう父が倒れ麓の村まで魔法が漏れ出し、戻らざるを得なくなりました。…あなたについて来て欲しいなんて言えなかった。だから離婚したの」
「…どうして、」
どうして言ってくれなかったんだ、と言いかけたけれど、じゃあ例えば本当に彼女がついて来てくれと言っていたら、僕はついて来ただろうか。分からない。
僕は言いかけた言葉を飲み込む。
大臣ジュニアと王女の視線が痛い。

元妻は感情を微塵も見せない声音で続ける。
「さて、ここまでは魔王の役割をお話ししました。ここからは勇者の役割についてです」
ちょうど、さっき元妻が何かを頼んでいた魔物が部屋へ戻ってきた所だった。
両手で捧げ持っているのが古ぼけて錆び付いた剣だと気付いて、僕ら3人は軽く腰を浮かせた。
「ありがとう。…警戒しなくても、あなたたちを害するつもりなどありません。この剣を扱えるのは勇者だけ、そしてこの剣で死ぬのは魔王だけなんです」
「え…?」
僕らのマヌケな体勢を一瞥して、元妻は魔物から受けとった錆びた剣を、寝台に眠っている老人――魔王の胸の上に置いた。
「これは、昔話に語られる初代勇者の剣です」
「ええーっ!あれただの伝説じゃないんすか!?」
「…勇者は実在しました。そしてそれは、私や父の先祖でもあります」
「は…!?」
「初代勇者は、当時の弱った魔王に死を与え、その娘――つまり次代の魔王と結婚しました」
もうさっきから、色々な事に驚きすぎて麻痺してきた。
ああそうか。元妻がどこか勇者像に似ているのは、当然の事だったんだ。
だって血縁なんだから。
勇者が魔王を倒した後、国に戻らなかった理由もこれで分かった。

大臣ジュニアが呆然とした表情で元妻を見つめている。
その手に王女がそっと触れた。びくりと身を震わせて、手を握り返し微笑みかける大臣ジュニア。
僕は見てない。何も見てませんよ国王陛下。
「もう一度確認しますが、勇者はあなたなんですね?」
「そうっす。この人が辞令で選ばれた正統な勇者先輩っす!俺は辞令で、王女は自主的について来た旅の仲間っす」
何故か僕より先に大臣ジュニアが返事をした。元妻は頷きを返す。
「分かりました。では勇者さま、その剣で父に引導をお願いします」
引導。インドウ?
元妻の言葉を理解するのに数秒かかった。
「…君のお父さんを殺せって言ってるように聞こえたんだけど」
「その通りです。老いた魔王に死を与え、魔王の代替わりに立ち会う…それが勇者の役割なの。さあ、お願いします」
「……」
体中の痛みを忘れるくらい、呆然としていた。
元妻はその僕の手に剣を握らせ、切っ先を老魔王の胸に当てる。
「ねえ、待って」
「辞令でしょう、勇者さま。仕事はしっかり果たしなさい」
「分かってる、でも少し待って。彼と話したい」
「…でも、父にはもう話す力は…」
「…嘘だ、だって聞こえる。話してる」
「え?」
元妻は老魔王の口元に耳を寄せる。角が刺さりそうで一瞬ヒヤッとした。
絞り出すような掠れ声は、娘の名を呼んでいた。
「何?お父さん」
「…こいつがお前の…婿か…?」
老魔王の目は、僕を見ていた。元妻が言葉に詰まった瞬間に、僕は老魔王の枯れ枝のような手を握って答えた。
「そうです。娘さんの事は僕に任せてください、お義父さん」
元妻は一瞬目を見開いたが、老魔王の口元に笑みが浮かんだのを見て押し黙った。
「ふつつかな…娘ですが、よろしく…」
「いえいえこちらこそ。ふつつかな婿ですが」
喉の奥で笑った拍子に、激しく咳込む老魔王。
「最期に…水を一杯もらえないか…」
元妻が涙声で、魔物に水を持って来るよう叫んだ。
しかしそれより先に、水を湛えたコップがすっと差し出される。
涙をこらえるように仏頂面をした、王女だった。
「どうぞ。美味しい水っすよ」
大臣ジュニアが王女の代わりにそう言ったが、彼もまたもらい泣きで涙声だった。
そう、悪いやつじゃないのだ。

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