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zoom RSS 39歳バツイチ男性が大冒険して道中特にモテたりせずに大魔王を倒して世界が平和になるファンタジー・12

<<   作成日時 : 2014/12/31 21:11   >>

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老魔王の埋葬まで手伝って、僕らが魔の山をあとにする時が来た。

「三人とも、色々とありがとうございました。お陰で父も安らかに逝けたと思います」
「いえ、えっと、この度はごしゅーりょーさまでした」
「『ご愁傷様でした』」
「ごしゅーしょーさまでした?」
若干不安そうな声音でそう言って、大臣ジュニアはぺこりと頭を下げる。隣で王女も粛々と礼をした。

僕はそのまた隣で、ずっと俯いて立っていた。
本当に、この方法しかなかったんだろうか。…もっと他にやりようがあったんじゃないのか。
「あなたも、ありがとう」
目の前から声がしても、顔をあげられなかった。
「あなたの事だから、もっといい方法があったんじゃないかとか考えてるんでしょうけど、いい?これでよかったのよ」
「……」
「切り替えてちょうだい。…私もそうするわ」
俯いた僕の目の前に、すっと手が差し出された。
ゆるゆると顔をあげると、さっぱりした顔の、だけど赤い目の元妻が微笑んでいた。
「さよなら。きっともう、会うこともないでしょう。元気でね」
僕はまた俯いて、下を向いたまま彼女と握手を交わした。

そして僕らは、昔話の勇者とは違い、無事に国へと帰還した。




********




「勇者先輩、どうしたんすか?そんなしょっぱい顔してー!」
「どんな顔なの、それ」
僕は顔をしかめて、大臣ジュニアに言い返した。

僕は今、王宮の盛大なパーティーに招かれ、飲めや食えや歌えや踊れの大騒ぎの、その中心にいる。
『魔王を倒した勇者』として迎えられた僕は、両手の指では足りない回数の胴上げと、両手両足の指では足りない回数の万歳三唱と、もう何回だか覚えていない回数の感謝の握手と賛辞を受けた。
勇者帰還パーティーはすでに3日目に突入している。
正直疲れた。帰りたい。
パーティーの間、何度かそう思ったけれど、一度荷物を置きに帰ったあの家の寒さと静けさを思い出すと、帰りたいという気持ちは萎んでいった。
『ただいま』と言ってドアを開ける。『おかえり』と、…言ってくれなくたっていい。もう寝ていてくれたって構わない。
誰かがいてくれる家はそれだけで温度が違うのだ。
僕はただ、どこかもっとあたたかい場所へ帰りたかった。

「そういえば、王女との結婚が許されそうなんだって?おめでとう」
「えっ、もう知ってるんすかー参ったなー!あざーっす!」
幸せそうな照れ笑いを浮かべる大臣ジュニアは、今がこの世の春だろう。
旅の前は牢屋に入っていて、命懸けの旅に出て、生還したら次期王配。
人生、どうなるかわからないものだ。
「国王とも少し話したんすよ。魔王と勇者の真実については、王家でちゃんと記録残してもらうようにたのんどきました」
「そうだね、それがいいと思う」
「あっ、そうそうそういえば、国王が勇者先輩の為に何か用意したって言ってたっすよ。…あ、あれかな?」
大臣ジュニアが示した先を見ると、国王がなにかどでかいものを運ばせてきた所だった。
5人がかりで押す台車の上には、布で隠された縦長の何か。
そう、ちょうど街中に立つ勇者像くらいの大きさの…。
「…まさか」
「皆のもの、注目してほしい。魔王が倒され代替わりした事で、我が国辺境で頻発していた家畜や動物の変死・奇病はぱたりと止んだ。そしてこれらは全て、勇者の働きによるもの。余はこの偉業を讃え、後世まで語り継ぐため、これを作らせた」
国王が腕を振ると、布が取り去られる。
布の下から現れたのは、新しい勇者の像…つまり僕の像だった。
「……っ!」
「ぶはーっはははは!マジかー!」
僕は一声呻いて頭を抱えてしゃがみ込み、大臣ジュニアが大声でバカ笑いをしたが、他の人々の歓声と雄叫びでどちらも国王には届かなかった。
「勇者先輩!勇者先輩!ちょっと勇者像の隣に立ってくださいよ!同じポーズで!ぶっはは!」
涙が出るほど笑っている大臣ジュニア。
僕はゆらりと立ち上がり乾いた笑みを浮かべて呟いた。
「死にたい。死ぬまではいかなくともなんかこう、どっか行きたい」
「え、どっか行くんすか?帰ってきたばっかなのに」
正直ただの愚痴だったが、真面目に受けとった大臣ジュニアがぱちくりと瞬くのを見て、改めて本気で考えた。
「うん…行こうかな。どのみちあんなの建てられたら、少なくとも王都はおいそれと出歩けない」
「どこ行くんすか?…時々会えるくらいのとこっすか?」
少し焦ったような声音が、ちょっとかわいく思えた。
本当に何もしていないのにこんなに慕ってくれて、不思議だが嬉しい。
僕は北西の方角をぼんやり見つめながら、ポツリと言った。
「…魔王の婿になりに行こうかと」
「…もう一回プロポーズするんすか!」
「…フラれるかもしれないけどね」
「百回くらい続けたら、同情してくれそうっすよね、あの魔王さん!」
「あ、うん、そうだね。同情ね」
彼に悪気はないのだ。おちつこう、僕。
「それじゃ、お互い魔王と女王の相方として頑張りましょうね、勇者先輩!」
「…うん、なれたらね」
「なれるっすよ、勇者先輩なら!」
「自分の心配はしてないんだね」
「えっ?」
「いや、なんでもない。じゃあ、元気でね」
「え、もう行くんすか?今から?」
名残惜しそうな大臣ジュニアに、僕は手近な場所に置いてある食事を口に詰め込んで、咀嚼し嚥下する。
「あのね、6日後は僕の誕生日なんだ」
「え、そうなんすか?!おたおめーっす!」
「僕は40歳になるわけだよ。バツイチの40歳だよ、崖っぷちだ」
「そんなこと…ないっすよ…」
嘘の下手な男だ。
「君の言う『同情』も引きやすいと思わない?」
「…うん、そうっすね!新魔王も結構崖っぷちだし、いいと思うっす!頑張って!勇者先輩!」
「ねえ、本当に悪気ないんだよね?」
「えっ?」
「…いや、何でもない。じゃあ腹拵えも済んだし、行くね」
いってらっしゃーい!という元気な声を背に、僕は王宮をひっそりと後にした。

ここから魔の山まで、王女を含んだパーティーで5日かかった。
僕一人ならもう少し早く着くだろう。少しのんびり向かおうと思う。
道すがら、魔王への贈り物でも探しながら。








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